「Girl, interrupted.」Suzanna Kaysen 和訳本、読了。

読み終わりました、「思春期病棟の少女たち」。
映画「17才のカルテ」の原作で、ノンフィクションです。
確かに映画とは全然違います。
映画のほうがリサは危うい感じに輝いていたし、デイジーも扱いが違うし・・・。
しかし、これは一読の価値ありかなぁ、と思う。特に、境界性だったり、そういうのを抱えている人には、なんらかの、自分を楽にする小さなほころびを見つけられる気がする。

中身は村上春樹ほどにはグロくないし、ただ、極端に個性の強い人、Aを見て、Aと思う人と、A'と思う人と、Bと思う人と、その違いは極めて曖昧だ、ということを、理性的に捉えることが出来ると思う。

認知心理学でも齧ったのだが、私たちは、所詮「思い込み」の中で生きている。
いま自分の目の前にあるもの、いま自分が見えているものは、「きっと」他人も同じように見えている、と。そうじゃないと、「不安」でいられないしね。けど、そうじゃない人たちもいて、何を持ってその「差」を見極めるか、どこからが精神病で、どこからがそうじゃないのか、そんなのは本当は定義なんて出来ない気がする。

たまたま、マジョリティの言う正義が、この世の秩序になっているだけ。

たとえば、私が三日だけ入院した閉鎖病棟には、色んな人がいた。話しかけても口をきかないおばあさん、人生とはこうあるべきだ、親にはこうあるべきだ、と、とうとうと語る男の子、何かにつけて世話を焼きたがる、躁うつ病の女の人、自分がここにいる意味がわからないし、それに対して憤っているけれど、それでも生きてる女の子、自分を傷つけて傷つけて、周りにも傷つけられて、夜も眠れず悪夢にうなされる女の子・・・・・
色々いた。三日だけだったけど、色んな人を見た。接した。

病院のスタッフもそう。はなから精神病扱いで、人とも扱われなかった人もいれば、じっくり話を聞いてくれた人もいる。

それに似たものをこの本の中に感じたし、著者と同じように、わたしもまた、あの場所を「怖い」と思っている。そのうち、何が「常識」なのか、わからなくなりそうだった。
何故なら、患者たちには患者たちの秩序があり、病棟にはアンバランスな安全が、檻の中に作られていた。それはただ単純に、わたしが感じた違和感は、彼らにとっての世間が、病院の中と逆転しているだけだからだ。わたしは、怖くて逃げ出した。慣れたくなかった。一度慣れたら出れない気がした。

要は「フィルター」だ。各自の持っているフィルター。それが揺らぐんだ。

著者は非常に理知的だし、それゆえに凡庸でいられなかったんだろう。頭脳的な賢さと、また別なところでの、内省的側面での、鋭い観察力。周りがどれほど罵倒しようとも、そんなものは気のせいだと言おうとも、それは確かに彼女の中に存在していたし、それに苦しんでいたのは事実なのだから。

関わる人たちが当人に対してフェアでいられるかというと、それも難しいと思う。自分に当てはめてもそう思うけれど。



「どうしてそんなことになったの、とひとは聞く。
 でも、そのひとたちがほんとうに知りたいのは、自分もそうなる可能性があるのだろうかということだ。その問いには、わたしは答えられない。ただ言えるのは、そうなるのはとても簡単だということだけ。」


「毎朝起床してシャワーを浴び、服を着て仕事に出かけられるだろうか。正気で考えることが出来るだろうか。とんでもないことを思いついたとき、口に出さずにいられるだろうか。出来る人もいたし、出来ない者もいた。でも、世間の目から見れば、みんなキズものだった。

 人々の拒絶反応は、いつも魅せられたような不安を帯びていた。わたしもそうなるのかしら?恐ろしいことが起こる可能性が少なければ少ないほど、それを目にしても想像しても怖がらずにいられる。かえって自分自身と話したことも無を見つめたこともないひとのほうが、驚き慌てる。『正常に』振る舞っているひとに、考えたくない疑問が浮かぶ。このひととわたしとはどこが違うのだろう。そう考えると、次には、わたしが気違い病院に入らないですむのはどうしてだろう?と思う。
 だからこそ、相手にわかりやすい傷があると助かるのだ。
 ひとよりよけいに怖がる人たちもいる。

 「二年近くも病院にいたの!いったい、どうしてまたそんなところに?信じられない!」
 翻訳すれば、あなたが気違いなら、わたしも気違いだわ。わたしが気違いじゃないとすれば、何もかもがとんでもない間違いに違いない。

 「二年近くも気違い病院にいたの?いったい、どこが悪かったの?」
 翻訳すれば、あなたのどこが狂っているのか教えてもらって、自分は狂ってないと確かめたいわ。

 「二年近くも気違い病院にいたの?それで、いつごろのこと?」
 翻訳すれば、あなたはまだ保菌者?」



朝から一気に読み上げましたが、読む価値のある一冊だと思った。